読書感想文『臣女』著者 吉村萬壱さん

ある日、主人公の浮気が妻の知ることとなり、その怒りがきっかけで妻の巨大化が始まった。主人公は近所の住人や職場の人たちに妻が巨大化を続ける異常事態を隠し続けて生活し、問題は隠しきれずに深刻化していく。

 

不気味なものを見たいという読者の欲求を満たしながら、夫婦生活の幸せな一面や苦悩を深くまで掘り下げて描写し、人間の不可解な執着心をスリル感を持って楽しめる小説だった。

 

主人公は、巨大化していく妻の問題を抱えながらも献身的に一緒に過ごしていこうと努力し疲弊していく中で「一緒に生活している者だけが幸せでいればそれでいい」、「他人は関係ない」、「人の事より自分の事を考えろ」といった、外界を遮断するような生き方を選んでいく。

一見極端に見える生き方だが、他人の視線よりも何よりも、家族を1番に想い、家族を優先して生きているのは私だけではないと思う。意識的に外の世界を遮断し拒絶することはなくても、独身の頃よりも距離を置くようになり、外の世界がどうでも良くなる感覚は共感できるものがあった。

 

また、日々食べては排泄をひたすら繰り返す妻の介護を懸命に行い、体力的そして経済的な限界をむかえ、未来が見えなくなっていく状況は、現在の介護の問題とも重なって見えた。解決策の無い苦行に堪え続ける辛さを垣間見たように思う。

 

フィクションとして単純に楽しめる小説もそれはそれで面白いけれど、この『臣女』の場合、人間の汚い部分や、汚い心を持ちながらも懸命に尽くしていく不可解な行動の心理を描き、一筋縄ではいかない人間というものについて考えさせる小説だった。

 

サスペンスを楽しむ感覚で読めるので、読書が苦手な方でも読みやすいと思います。

ここ最近で読んだ本の中でダントツでおすすめです!