読書の感想

『女神』著者:三島由紀夫 出版:新潮文庫

三島由紀夫の作品は耽美、妖艶、貴族趣味。 今回読んだ『女神』も結末以外は期待を裏切らなかったです。 ・依子について かつては美貌に溢れ夫の愛を一身に受けていたが、戦争によって火傷を負ったことをきっかけに人目に出ず引きこもった生活をしている依子…

『創られた明治、創られる明治』編:日本史研究会 歴史科学協議会 歴史学研究会 歴史教育者協議会 出版:岩波書店

【概要と感想】 明治になってから150年をむかえる2018年、記念式典開催が開催された。当時首相であった安倍晋三の式辞で「五箇条の御誓文が、古い陋習(ろうしゅう)を破れと説き、身分や階級を問わず志を追うべしと勧めたとおり、新しい国づくりに際しては…

『横丁の戦後史』著者:フリート横田 発行:中央公論新社(2020)

この本に出会ったきっかけはTwitterです。 フリート横田さんのノルタルジックな飲み屋の投稿がRTで回ってきて、彼の投稿を読んでみたら面白く、本を出していることを知って手に取ってみました。 心に残っていることを断片的ですがまとめました。 ー消えゆく…

『明治を生きた男装の女医 高橋瑞物語』著者:田中ひかる 発行:中央公論新社(2020)

医学部入試で女性の受験者を不当に不合格としていた事件は記憶に新しい。また、未だに「女医」という言葉には「未熟さ」「若さ」「見た目がきれいである」「性格がキツい」といったイメージをもって使われることもあるように、世間一般的の認識に女性で医者…

『エッセンシャル極アウトプット「伝える力」で人生が決まる』著者:樺澤紫苑 発行:株式会社小学館(2021)

著者の樺澤先生はYou Tubeで知りました。かれこれ5年ほど前になるでしょうか。私が産後鬱で辛かった時に大変ためになる情報を発信されていて、メンタルクリニックへの受診の助けになり、今でも日々のメンタルコントロールをサポートしてくれる存在です。 数…

大杉 栄 伊藤 野枝選集 第一巻「クロポトキン研究」 黒色戦線社1986年6月1日発行

経済学や経済哲学の話となると翻訳が難解で理解に苦しむことが多々あったのですが、この本の前半では引用だけでなく大杉栄氏の解説によるところが多く、近代経済を学びたい人の入門書にもうってつけな内容なのではと思いました。 ダーヴィンの進化論が誤って…

『「オバサン」はなぜ嫌われるか』著者:田中ひかる 集英社新書

「オバサン」の定義を細部まで突き詰めることで、今までの日本で形成されてきた女性に対する差別的眼差しを明らかにしている本です。 私の中で1番衝撃だったのが、妻が夫の浮気と賭け事への散財を理由に離婚と財産分与を求めて訴えた際の、1955年5月6日の東…

『風よあらしよ』村山由佳 集英社 を読んで

『風よあらしよ』は、伊藤野枝の生き様を小説にしたドラマ化もされている作品です。 私は彼女について、女性の社会運動家として度々見聞きすることがありましたが詳しくは知りませんでした。 この小説では、本人の立場から見た尺度で語られていること、また…

絶版で出版社も廃業していて著者を検索しても出てこない本を読んでいる

時々近所で開催される古本市でたまたま見つけた本が面白く、著者はどんな人なのだろうと検索をかけてみた。けれどもめぼしい情報は手に入らず…。 著者のことが分からないことも残念だが、検索すればなんでも出てくるのが当たり前だと思っていたことに、軽く…

『大正女官、宮中語り』を読んで

著者の山口幸洋氏は静岡を中心に日本全国の方言を研究している方で昭和天皇のものの言い方のアクセントに興味を抱いていたという。そこに、地元の同級生が世話になっている坂東さんという方が大正天皇にお仕えした女官だったという話が舞い込む。もともと地…

『月経の人類学』を読んで 

「生理用品の質的向上により女性の社会進出が進んだ」というのは『生理用品の社会学』を読んで知った気になっていた。 けれど、これは清潔な水へのアクセスやプライバシーが守られるトイレ、そして使用済み生理用品の廃棄処理という様々なインフラが経済成長…

『じゅうぶん豊かで、貧しい社会』を読んで

欲について産業革命前から今を考察している本。 特に印象的だったのはケインズの主張。「食べるに困らない生活水準に達すれば、人は労働から解放され自由になれる」と産業革命前は本気で信じられていたのだ。生命の維持がそもそも大変だった時代からすると、…

『草祭』作者 恒川光太郎

高校生の日常から始まるストーリーはまるでラノベ小説のよう。恋愛や友情、いじめの問題などありふれた内容が続くのかと思って読んでいた。けれど、そんな思い込みはつかの間で、「美奥」という町の不思議な魔力に取り憑かれてしまった。 今現在を語る箇所か…

『ヒトラー 虚像の独裁者』著者:芝健介先生

発売された数日後に買って、少し読んで放置してしまった本の1つ。積読になっていたのを再び読み始めています。 まだ3割ほどしか読めていないのですが中間感想をまとめます。 【悪魔が産まれたわけじゃない】 反ユダヤ主義思想でおなじみのヒトラーについて、…

『熱源』を読んで

なんて悲しい物語なのだろう。 ただ、人として日々の生活を淡々と送りたいだけなのに、土足で上がってきた列強国に住む場所を奪われなければならないなんて…。 日本が引き起こした戦争は、朝鮮半島や中国、フィリピンを初めとする諸外国敵地侵略(もちろんそ…

『春琴抄』を読んで

盲人の春琴の我儘は底知れず、パワハラモラハラ極まりない。そんな彼女であっても、一途に側に居続けお世話をする佐助が愚直で、何でそんなにまで耐え続けるのかと不思議でならない。 好きであるのに簡単に手に入れられない高貴な存在であり続けると、尽くし…

『蘆刈』を読んで

川辺には当時の面影こそ残っているけれど、そこには人の姿が見えない。そこに行き来した人々の行く末を思う描写を、月が川に揺らめく美しい情景を和歌と漢文と古語を用いて艶やかに語っていて、いにしえを偲ぶ儚い気持ちになった。 孤高な女を好きになった父…

『夢みる教養』を読んで

勉強(教養を身につけること)って何になるのか常に疑問を抱えてきたし、大人になった今でも何のために学ぶのか私のなかで答えはみつかっていないし、その答えが書いてある訳ではないとこの本の中でも述べられている。 「教養」という言葉自体が時代と共に変…

『フェミニズム』著者:竹村和子

大学の難しい講義で取り上げられるような、中堅大学卒の私には難易度高めの内容だった。 途中割愛している箇所もあるけれど、各セクションごとの表題に分け、頭の整理の意味も込めて自分なりにまとめてみた。 間違った解釈をしていたり、文字は読めるのに理…

『家』著者:島崎藤村 フェミニズムな視点からの感想

親の代までは繁栄を遂げていた旧家出身の島崎藤村。彼の名前と彼がキリスト教徒であることくらいしか知らないまま、本書を手に取り彼の生きてきた軌跡に初めて触れた。 特に、藤村の姉のお種が、今もなお女性が生きる上で足枷となっている重圧の中で生きてい…

『蒲団』作者:田山花袋

読んでから随分と経ってしまったのだけれど、印象に残っていることを2つ書いておこうと思う。 まず、人の容姿をとやかく描いているのが好きじゃなかった。容姿で何かしらの感情が生まれるのは当然のこととしても、それを他人がとやかく比べて劣っているとか…

『典子の生き方』著者:伊藤整

昭和15年に書かれ若者向けの雑誌に掲載された本作品は、戦争前夜の華やかさが感じられた。 幼い頃に父親を亡くし叔父のもとで育てられた典子は、孤児でありながらも叔父の娘と共に大切に育てられている。しかし、いつも心のどこかに孤独感があった。久々に母…

『山の音』作者・川端康成を読んで

『山の音』は戦後文学の最高峰とされている作品だそうだが、諸所に女性や子どもの人権が希薄な様子が描かれていて気分を悪くしながら読んでしまった。 まず、自分の息子の嫁に恋心を抱く舅という設定が気狂いものだ。今の時代にこんな内容の小説が売り出され…

『野菊の墓』を読んで 作者:伊藤左千夫

『野菊の墓』の作者は1864年産まれの伊藤左千夫(いとうさちお)だ。歌人で有名な方のようだけれど、私は今まで彼のことを知らなかった。メルカリに出品されていた本のまとめ売りの中の一冊が出会いのきっかけ。 面白いのかどうなのか分からぬまま読み進…

『禁色』を読んで

三島由紀夫の作品は彼が割腹自殺をしたという事実を意識せずに読むことは不可能で、「死」への憧れが残像となって揺らめいて離れることがない。それ故に、檜俊輔が徐々に悠一の美しさに毒され「死」と「美」との持論を述べ始めたくだりから、三島由紀夫自身…

仮面の告白を読んで

30歳を手前にして、初めて三島由紀夫の『仮面の告白』を読んだ。 仮面の告白の前に、「音楽」と「潮騒」を読んでいただけで、三島由紀夫については綺麗な言葉を巧みに操る文豪で、その最期は割腹自殺した変人くらいの認識しかなかった。 そして、最近、三島…

読書の感想『嘘を愛する女』 著者岡部えつさん

『嘘を愛する女』 著者岡部えつさん ※ネタバレ注意 ◆あらすじ 主人公の由加利と暮らす小出桔平は、彼女と5年も一緒に暮らしていながら、自身の過去も職場も名前も何もかもを嘘で塗り固め、過去の贖罪を抱えながら過ごしていた。由加利はもうすぐ30歳。結婚に…

読書感想文『おしまいの時間』 著者 狗飼恭子さん

『おしまいの時間』を読んで 3年前に教わった、さほど関わりのなかった学校の先生の死によってもたらされた3人の不思議な人間関係。それぞれ自身の問題を抱えながらも、チグハグな人間関係の中で励まし合い、時には傷つけ悲しんで、それでも前に進んでいかな…

読書感想文『臣女』著者 吉村萬壱さん

ある日、主人公の浮気が妻の知ることとなり、その怒りがきっかけで妻の巨大化が始まった。主人公は近所の住人や職場の人たちに妻が巨大化を続ける異常事態を隠し続けて生活し、問題は隠しきれずに深刻化していく。 不気味なものを見たいという読者の欲求を満…

読書感想文『卵の緒』著者 瀬尾まいこさん

自分が捨て子であることや、学校生活などで日々出てくる問題に対し、子どもながらの素直な目線で1つひとつ答えを見つけていく日常が、ユーモアに溢れた母さんとの会話と共に暖かく描かれた小説でした。 母さんによると、「美味しいものを食べたとき、それを…