『創られた明治、創られる明治』編:日本史研究会 歴史科学協議会 歴史学研究会 歴史教育者協議会 出版:岩波書店

【概要と感想】

明治になってから150年をむかえる2018年、記念式典開催が開催された。当時首相であった安倍晋三の式辞で「五箇条の御誓文が、古い陋習(ろうしゅう)を破れと説き、身分や階級を問わず志を追うべしと勧めたとおり、新しい国づくりに際しては、それまでの身分、武士・農民・町民の別に関わりなく、若者や女性を含め、志を持った人々が、全国各地で躍動しました」と述べている。

 

果たして明治とは、女性を含め身分に関わりなく躍動できたのだろうか。

 

また、「明治という時代が新たに生み出した多くの人材が、急速な近代化の原動力となり、我が国は近代国民国家への第一歩を踏み出しました。憲法の制定、議会の設置、内閣制度の導入など、立憲政治・議会政治の基礎が築かれました。工業化の進展、鉄道の開通、郵便や金融制度の整備、産業も大きく発展しました。義務教育が導入され、女子師範学校が開設されるなど、教育が充実したのもこの時代です。現在の政治、経済、社会の土台が築かれました。」と現在の日本の発展に明治という時代が大きなターニングポイントのように述べられているが、議会政治の不備や工業化がもたらした災害、女性の就学率の低さという視点等は語られず、発展して良かったという側面でしか明治を捉えていないように取れる。

 

式辞を読んだだけで歴史修正主義の意向がはっきりと見え、一片通りな主張が列記とした記録として残っていく、強者によって歴史が作られていくことに楔を打つべく書かれた本である。

 

私は「歴史を学んで何になるのか」と学生時代から思っていたが、歴史に無関心な人が多ければ多いほど歴史修正主義者の思うがままに歴史が作り上げられてしまうこの現状を前に、歴史を学ぶことで差別に気付き、社会認識の仕方に疑問を持てるようになるのだという回答を自分なりに得た本だった。

 

学ぶ学ばないは人それぞれだが、歴史は今の政治にも繋がるということがこの本を読んで分かったので、私はこれからも歴史を学ぶことを続けようと思う。

 

【今後掘り下げたいことのメモ】

〜第1部より〜

文化の日とは戦争放棄を宣言した日本国憲法が公布された日を記念し「自由と平和を愛し、文化をすすめる日」となっているはずなのだが、自民党やその関連団体は明治天皇の誕生日である11月3日に由来を付け、明治天皇と一体となって近代化を推し進めた日としたいようだ。

 

明治時代は軍事力で他国を支配する帝国主義時代であったが、司馬遼太郎の『坂の上の雲』が朝鮮支配は弱肉強食の世情で仕方のないことだったと認識した見方で書かれているように、明治礼賛が受け入れられる土壌であり、これを更に後押ししたことを否定できない作品である。

 

明治時代に「征韓論」がまかり通った所以をたどることなく発展した面だけを切り取って解釈するのは、あからさまに支配した歴史を無かったことにしようとしていて気味が悪い。

 

また、朝鮮史に触れる機会が無いことで、支配されてかわいそうだという支配した側の一方的な見方でしか理解が及んでいない点を指摘している。確かに、反日運動はあったが、どんな人たちがどんな行動に出たのかぱっと思い浮かぶ名前が浮かばない。朝鮮史を知らなければ、これからの外交にも問題が出てきそうだ。

 

〜第2部を読んで〜

安倍晋三氏によれば明治時代は女性の社会進出が進んだ時代という認識のようだが、近代国家は女性の政治的権利を奪って成立した事実を無視した見方であることが以下の点から分かった。

 

①1876年の浜松では、戸主であれば性別問わず選挙権があった。

1878年高知でも、楠瀬喜多の活躍により1880年に女性参政権が実現した。

 

しかし、1884年の改正で20歳以上の男性のみに選挙権は改悪されてしまった。

 

また、明治民法の呪縛から解き放たれていないという言葉が心に残っている。家父長制を制度化し、結婚後は夫の姓に変える仕組みは未だ9割を超えている。

 

また、銃後史にも触れている。

託児所や学童保育は戦時下につくられ子育て支援は進んだように、フェミニズムの考えが国策に回収され、戦争を後押ししていたことが分かった。本文に出てくる鈴木裕子さんの「国策とフェミニズムの共犯関係」という言葉を頼りに、どうしてそうなったのか深掘りしたいと思った。

 

〜第3部を読んで〜

明治150年をどう捉えているのか、都道府県別に旧藩時の派閥にカテゴリー分けし、かつ明治150年政策に関して発信している内容と照らし合わせ、各自治体の認識を明らかにしていて面白いと思った。

 

戊辰戦争は内戦でありその立場の違いから明治の見方が変わるのは当然で、明治150年を一方的な見解で押し付けるようなことがあってはならないと思う一方、関連する歴史が出てこないという国が主導した歴史に絡め取られるのを傍観しているか待っているかしかしていないような自治体もあり、歴史が気にもされないものとして存在していることが現実なのだと痛感した。

 

私の住んでいる埼玉県は表の中に出てくるくらいで予想通りなのだけれど寂しい気持ちになった。歴史は後に伝えなければ表明したもの勝ちになるのだと分かり、郷土史を残すことは大事なこたなのだなと気付いた。

 

あまり戊辰戦争について関心がなかったのだが、ちゃんと勉強しようと思った。

 

おしまい。

 


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