映画『海賊とよばれた男』を観て

出光興産の発展にまつわる歴史をモデルにした映画で、日本の戦後復興期に立ちはだかる世界情勢の圧力に真っ向から対抗する大和魂が描かれていた。

 

泥臭い苦行に耐えながら、時代時代の先取りで成功に導いた功績は本当に素晴らしいと思うと同時に、今では考えられないような労働環境のもとで危険な石油を取り扱っていたのかと思うとゾッとしてしまった。(海軍が備蓄していた石油を精製しているシーンは特に。)映画だからフィクションで、ガスマスクは当時でも存在していただろうし、手袋くらいはあっただろうから生身の人間がノーガスマスク・ノー手袋で石油に接触してないことを願いたい。

 

あと、夜遅くなっても、店主はともかく他の従業員も会社に残っているシーンは「長時間労働が普通だった過去のこと」としてみれないことに悲しくなった。研究職は特に令和になった今でも長時間労働だから、どうにか早く「昔は長時間労働が当たり前だったなぁ」と思える日が来てほしい。

 

史実に沿っているのかもしれないけど、様々な場面場面で気になることが浮上し気が散ってしまった。

 

極めつけは、アマダンに日章丸(タンカー)を行かせる際、船長以外の乗組員たちに行き先を告げていなかったシーン。

 

いやいやいや、イギリスとイランの戦争が始まりそうなところなのに従業員へ告知しないってどんな最低な労働環境なんだ!!家族への最期の時を過ごしたい人や遺書を書いておきたい者もいるだろうにと驚いてしまった。映画の中では元兵士の戦場帰還者たちが鼓舞激励し合い、どんなところへも行くと意を決しているので「特攻をやるだけあるな」と冷めた気持ちになってしまった。

 

また、メインストーリーではないけれど、主人公の妻ゆきさんの生き方が気になった。

 

会社が繁盛し規模を大きくしていけばしていくほど、夫と過ごす時間はなくなり、はたまた当時の結婚の大きな目的である「子どもをつくること」が果たせないとなると妻でいる意味がないと田舎に帰ったゆきさんは、幸せだったのだろうかと気にかかった。

 

世間の圧力ほのか主人公の兄からの圧力もあっただろうから、田舎に帰る決心をしたことの本心の程はどんな心境だったのだろう。戦争で適歳の男性がいないこともあるだろうけれど、亡くなるまで独り身で生きたゆきさんの制限された選択肢は、今ではまだまだ中途半端だけれどだいぶ前進している。

 

社会から疎外されていた女性がここまでになるには様々な対抗の歴史があるので、その努力の功績にタダ乗りするんじゃなく踏み台にしてもっと高いものへと昇華しなくちゃと思った。