映画の感想『震える舌』監督:野村芳太郎

1980年公開の映画なので、古さが感じられました。当時の医療現場を患者側の視点で描いているもので、今の医療環境との違いが歴然と分かる内容でした。

 

【あらすじ】

何らかの感染症にかかったと思われる症状が出た娘。病院を何度か受診するものの原因がなかなか分からずにいました。大学病院を受診した頃には、娘が危ない状況であることを親として受け止めなければならず、死んでしまうかもしれない娘を前に、医療現場で生じる諸々の問題にぶつかっていき、苦悩する両親の姿が描かれていました。

 

【特に驚いた現在との違い】

この映画は1980年公開なので、今から38年前の様子を垣間見ることができる映画です。

約40年前の常識と今の常識との違いに驚く場面が多々ありました。

特に気になったことは以下のことです。

 

①町医者にかかるも、口を開けたがらない子どもを面倒くさがって診察しないような医者の存在と親の行動

 

町医者の行動が信じられないのは言うまでもなく映画だからオーバーに描いているのかもしれません。しかし、もっと驚いたことは、診察していない状態の子どものことは、親として心配にならないのだろうか?という疑問が拭えませんでした。

 

未就学児と思われる子が、看護師さんたちに羽交い締めにされながら口を無理やり開けられてる様子を耳鼻科でよく見かけますが、それくらいしてもらうように言わなかったのかな?と疑問に思いました。

80年代は、お医者さんに意見を言える時代じゃなかったのかもしれません。私が産まれるたった10年前のことなのですが…。

 

②夜間は当直医1人が判断をするリスク(年配の教授と複数の医者が診たところ時間との戦いの破傷風だった)

 

小児科病棟で経験浅めのような医者1人に判断させるのはリスクが高すぎる気がしますが、地方や病院の状況次第では、今でも課題となる問題かもしれません。

実際、私が胃痛が激しく夜間救急にかかった時に、当直していた1人の先生が診ていました。明らかに胃腸炎の症状だったので数分で先生の診察は終わり、点滴で休む処置がされましたが、原因がよく分からない時にはどんな対応がなされるのか、この映画を観て少し怖くなりました。

 

③子どもの病気やこれから行う治療行為についての説明を片親(この映画の中では父親)にしか説明をしない大学病院の先生

 

子どもは父親と母親がいてはじめて産まれてくる、両親にとって大切な大切な宝物であるはず。なのになぜ、子どもの病状やこれからの治療についての説明を父親だけにしかしなかったのか、理解ができませんでした。重要なことは男に伝えるような時代だったのでしょうか…?的確な判断をされる先生が取った、お母さんの心情を配慮するという考えに至らない無意識的な行動なだけに、がっかりしました。

女性の地位が低く、無意識的に行動に出ていたという根強い悪習を感じざるを得ませんでした。

 

最近、我が子も入院し手術を行ったのですが、治療についての医者からの説明は、両親が揃っている時や、片親に先に伝えていても必ずどこかで直接説明をしてくれるような環境でした。一昔前は、今の当たり前が当たり前ではなかったのでしょう。

 

④着替えやオムツ替えなどの看病を親族が行うのが前提となっていること

 

子どもの病状が悪く長びきそうな状態の場合、ずっと付き添いたいけれども現実的には不可能なことが、今では大半なのではないでしょうか。おそらく、子育て世代の大半は、何らかの仕事をしていて、1日中片時も離れずにいるというのは難しい状況かと思われます。

 

しかしこの映画は80年代。

もしかすると、子どもが入院した時の子どもの看病は母親が行うのが通常だったのかもしれません。看病をするよう一方的な支持が医者からされるのみで何のケアもなく、娘の死への覚悟までをも家族だけで抱えていかなければならない辛さがありありと描かれていました。

死を覚悟しなければならない、娘が苦しんでいるのを見ていなければならない精神的に苦しい状態に加え、病室での簡易ベッド生活という苦行はさらなる精神的疲労を産み、母親が娘の治療を拒むほどまでに追い詰められるシーンが描かれてました。

 

今は病院にソーシャルワーカーさんがいたり、お金はかかるもののシッターサービスがあったりと、いろんなことがケアされていて今の時代の良さが感じられました。

 

⑤小児科病棟で重度の患者がいる個室と大部屋が隣接し危険が多いこと

 

病院の規模にもよるのでしょうが、絶対安静が必要な状態なのに、注意事項の喚起が徹底されていないことが驚きでした。

情報共有できちんとケアをすることが80年代には徹底されていないことが問題だったのでしょうか?今の医療現場での問題として困るような話を聞いたことがないのですが(私が知らないだけかもしれませんが)、(患者を含めた)医療環境に関わる人の意識で変われることもあるように思いました。

 

⑥ナースステーション前でタバコが吸える環境

 

今の医療環境では考えられないような状況が描かれていて驚きました。

しかも小児病棟だよね?喘息の子ども大丈夫?病院で悪化しない?

 

映画のはしばしにタバコシーンがありましたが、今では病院での禁煙化が進んでいるので、タバコについては改善がされていることは本当に良かったと思います。

 

 

【子どもの死を覚悟すること】

 子どもが苦しむ姿を見なければならない辛さ、回復の兆しが見えてこない絶望感が描かれているシーンは、涙が出てしまいました。

 

「とにかく死なずに、無事でいてほしい」

そう思いながら手術が終わるのを待っていた日のことを思い出しました。

手術が終わっても、薬の影響で熱が出ていたり、動けないようにベッドに固定され、嫌がる我が子に「何もしてあげられない」のがもどかしかった。

 

娘がもう少し大きくなったら、あの時は頑張ったねと伝えてあげたいです。