『蘆刈』を読んで

川辺には当時の面影こそ残っているけれど、そこには人の姿が見えない。そこに行き来した人々の行く末を思う描写を、月が川に揺らめく美しい情景を和歌と漢文と古語を用いて艶やかに語っていて、いにしえを偲ぶ儚い気持ちになった。

 

孤高な女を好きになった父親の叶わぬ恋物語が主題なのだが、卑猥さと紙一重なハラハラするストーリーを妖艶な文体で焦らし焦らし語っているのが今の時代にもマッチしていて驚いていた。

 

父親が母ではない別の女を好きでいることを聞かされた息子もまた同じ女を好きになるという、まるで妖怪が惑わしの術でもかけているかのようだ。恋物語を語った息子が風とともに消えてしまう結末も奇怪に満ちて月夜の情景にピッタリだった。