大杉 栄 伊藤 野枝選集 第一巻「クロポトキン研究」 黒色戦線社1986年6月1日発行

経済学や経済哲学の話となると翻訳が難解で理解に苦しむことが多々あったのですが、この本の前半では引用だけでなく大杉栄氏の解説によるところが多く、近代経済を学びたい人の入門書にもうってつけな内容なのではと思いました。

 

ダーヴィンの進化論が誤って認識されてきたことは周知のことですが、正しくはどのような解釈で認識せねばならないのかも紹介されていました。自然現象である「生存競争」は弱肉強食のイメージで語られますが、もともとダーヴィンは二つの意義をもって語っており、弱肉強食の世界観だけでなく相互扶助の考えを含むものでした。

 

しかし、ダーヴィンの二つの意義は「狭義の生存競争、ただ食物を求めるための個々の競争という一面の説明材料をのみ主としてあつ(蒐)めてあるので、他のさらに重要な一面がまったくそのかげにおおわれてしまった」のです。以後、あらゆる学問でこの生存競争の観念をもって語られることとなり、第二次世界大戦で横行したジェノサイドが既に戦前から学問界で率先して行われ、起こるべくして戦争は起きてしまったのだということが分かります。

 

また、労働者たちら今までは株主や支配人や監督のためだけに富を作っていたけれど、生産性の向上により「すでに発明された、また発明さるべきいろいろな機械の助けによって、みずからその富を生産しうべき社会であることであろう」と、自由な時間の確保というまるでユートピアな世界観で未来が語られていたことは興味深いです。クロポトキンの生きていた頃に比べれば労働へ費やす比重は軽くなったものの、果たしてクロポトキンの考えていた幸福は訪れたのでしょうか。過労死の問題が100年経っても未だに撲滅されていないのが現実です。

 

後半では伊藤野枝氏による翻訳が載っています。フランス革命は市民から沸き起こった革命で、旧体制に対抗し市民権を獲得していった一大事件という一般的な認識に釘を刺すクロポトキンの解釈は、できてしまった社会構造を変えることの難しさを伝えています。また、軍隊式の上から押し付ける教育体制に異議を唱えているその内容は今の時間軸から見ても古さを感じさせません。

 

多くの国民が幸福になれるよう主張していた大杉栄氏や伊藤野枝氏のような社会主義者たちが、「社会主義者=暴力を行使するのも厭わない怖い存在」という見方をされ、粛清されてしまったことが日本の損失でしかなく悲しく悔しいです。

 

粛清から100年が経ってしまったけれど、彼らの目指した社会のあり方に少しでも近づけるよう、私のいる会社で人権否定が起きたら反発するし、自分に関わる人を大切にして生きていこうと思います。


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