『草祭』作者 恒川光太郎

高校生の日常から始まるストーリーはまるでラノベ小説のよう。恋愛や友情、いじめの問題などありふれた内容が続くのかと思って読んでいた。けれど、そんな思い込みはつかの間で、「美奥」という町の不思議な魔力に取り憑かれてしまった。

 

今現在を語る箇所から一変して、いつの時代なのか領主の権力争いのある時を舞台にした美奥の過去に纏わるストーリーがあり、はたまた現代に生きる人の生活の中に美奥と関係のある人物が出てきて、魔法のような部屋で苦楽を目の当たりにする不思議な世界の中で過ごしたりする。

共通する世界観は「生きること」なのか。

苦しみの中にいる人間が獣として美奥の魔の世界で生きると決めたり、過去のストーリーでは未来を見据えて美奥を離れる人間がいたり、現代にもどり苦解きというゲームを受けている最中に抜け出し(抜け出してはいけないルールだが)人間界へ戻る少女がいたり、誘われるがまま美奥の男の子についていき、そのまま美奥の町の慣わしに従って生きようとする少女がいたり。

 

人物や時代も錯綜するので短編小説が連なっているかのような展開だけれども、美奥が根底にある不思議な世界観だった。