『典子の生き方』著者:伊藤整

昭和15年に書かれ若者向けの雑誌に掲載された本作品は、戦争前夜の華やかさが感じられた。

 

幼い頃に父親を亡くし叔父のもとで育てられた典子は、孤児でありながらも叔父の娘と共に大切に育てられている。しかし、いつも心のどこかに孤独感があった。久々に母親に面会に行くも、どこか自分によそよそしい母親への絶望や、初恋相手の速雄の病死、叔母から縁談を持ちかけられ家を出るよう諭されたことなどが重なり、耐え難い孤独から逃れるように叔父の家を飛び出すのだ。

友人の伝で喫茶店に住込みで働き始めた典子は、居場所を求め自立への道を進んでいく。

 

自立した女性像は、作者の風刺的な意見を込めたもだそうだ(解説より)。少なからず戦時下であっても、女性の一人立ちや個人を大切にする考え方は存在していたことに驚いた。残念なことに日本は太平洋戦争に突き進み多数の若者の人生をめちゃくちゃにしたのだが‥。

 

これをリアルタイムで読んだ20代のその後を考えると、未来を国に捧げ、自らの人生を終えてしまった者もいるのだと思うと切なくなる。

 

戦争という呪縛から開放されたのちに、196年に文庫本が出版された経緯もなかなか興味深い。女性が差別に気付き主張し行動に移してからしばらく経つが、主張が受け入れられるまでになんと時間のかかることか!令和になった今でも、まだまだ女性が下手に出なければならない風潮が強いのを感じている。

 

また、本ストーリーとしては逸脱となるのだが、特に印象的だったのは、典子が速雄の次に恋心を抱きはじめた鈴谷の結婚感だ。

長男である彼は母親から早く身を固めるよう催促されている。しかし、そろそろ徴兵されるかもしれないから、結婚はよしているというのだ。

 

自分の近い将来に「死」の可能性を組み込んで生きる人生とはどんなものなのだろう。戦争が終わった後で虚脱感に苛まれはしなかっただろうかと、本作品のメインテーマから逸脱してしまうのだが、思いを馳せずにはいられない。