読書の感想『嘘を愛する女』 著者岡部えつさん

嘘を愛する女』 著者岡部えつさん

※ネタバレ注意

 

 

 

 

 

◆あらすじ

主人公の由加利と暮らす小出桔平は、彼女と5年も一緒に暮らしていながら、自身の過去も職場も名前も何もかもを嘘で塗り固め、過去の贖罪を抱えながら過ごしていた。由加利はもうすぐ30歳。結婚について考えない訳ではないが、彼が何かを隠している様子に気づかないふりをし続けていた。

 

ありきたりの恋愛小説かと思いきや、桔平が経験し、隠し通そうとしていた壮絶な過去は、産後鬱を経験した私からすると、とても他人事ではないように思えた。

 

医者という仕事柄、家庭を妻に任せていた安田公平(桔平の本名)。

妻の手によって子どもを失い、その原因が自分の今までの行いが生んでしまった家庭との接し方にあったことを後悔せずにはいられない一方で、我が子を殺害した妻に会うことは、整理のつかない激しい悲しみと怒りによって憚られ、仕事やお金、親や友人との関係など、自身に関わるもの全てを捨て、妻の元を去ってしまう。後に、自殺を遂げたことで妻までをも失い、更なる罪の意識を抱え込むことになるのだが…。

 

自分を含め、相手の感情や想いにこたえることを避けてきた結果、自分をいくら責めても償いのできない苦しみの中にい続けることとなった。

 

しかし、由加利との出会いが彼を変えることとなる。

 

 

◆感想

桔平が亡き妻子との思い出を小説に記しており、ストーリーの随所に登場するのだが、彼が妻子を大切に思い日常を恋しく思っていることが痛いほど伝わってきた。何気ない過去の幸せを、大事に大事にしていかなければならない桔平を思うと、読んでいる私まで胸が締め付けられるような感覚に襲われた。

先に触れたように、私は産後1年近くメンタルがボロボロの産後鬱状態にあった。コントロールの効かないイライラと死にたくなるような強烈な不安感と過去の嫌な記憶のフラッシュバックに振り回されていたため、私が我が子に手をかけてしまう可能性や私自身が自殺をする可能性はゼロではなかったように思える。だからこそ、桔平のような窮地に旦那を追いやらずに済み、子どもの成長を夫婦で喜べることが奇跡のように感じられ、苦しい時期に私を支えてくれた旦那に改めて感謝し、これからも日常を大切に過ごしていきたいと思った。

恋愛小説ではあるものの、淡い切なさだけでは終わらない、家族のあり方やそれぞれの家庭での夫婦のあり方を考えさせられた小説だった。

 

しかし、子育てに積極的でなかった夫との恋愛感情をとうに通り越し、子育てもひと段落した方が読んだら、私とは違う感想にもなっているかもしれない。

 

なぜなら、桔平の行動は、育児放棄をしたフラリーマンのようだからだ。自分の行動を棚に上げ、哀れな自分に浸りながら別の女と懇意になった話とも捉えられ、なかなかひどい男っぷりを見せてくれるとんち話のようにも思える。ひどい人だと思える安田公平の行動に、目を瞑りながら読んだ事は否定できない。

 

様々な家庭の事情があるけれど、どちらかの稼ぎがうんと良かったり、仕事がめちゃくちゃに忙しくても、子育てに関しては夫婦で協力していきたいと思った。